Jonesと言われた男

家庭菜園を主に呟きますが、時には脱線するかも……

小説「真実」……6回目

先日、種を蒔いたキャベツ、白菜が育ってきた。

そろそろ、畑に植え替えする畝を作る必要がある。

今日の午前中にでも ……熱中症に気をつけながら。。。

 

それでは、小説「真実」6回目……読んでみてください。

  

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 4月13日土曜日、午前9時45分、事務室へ入り、留置場内を巡視した。

 休日の巡視であることから、背広姿の私服での巡視だ。

 3号室で対面看視されている宮脇に対して

「56番おはよう、元気か?」

 と声をかけたところ、小さな声で、

「おはようございます」

 と返って来た。

 なにかしら、元気がない。

 当然だ。昨晩、大きな心境の変化があったもので、平静にいられるはずがない。

 場内の巡視を終え、事務室内に1人でいたところ、

「師匠、もって来ました」

 と言って、川部が、出入口ドア横小窓から、茶色の封筒1枚を差し出した。

「昨日は、すまなかったな」

 と言いながら、封筒を受け取り、中を見たところ、ネクタイピンを二方向から移した写真2枚が入っていた。

「帳場は、全員出勤で大騒ぎです」

 と言って、川部は立ち去った。

 尾山は、写真を見ながら、「この写真を見て自供した…… なぜや?」と、独り言を言いながら写真を眺めた。

 机引き出しから、天眼鏡を出して拡大して見ても、真ん中に小さな石が埋め込まれた、普通のネクタイピンで、イニシャルなどは刻印されていない。

 ただ、品物は高価なものではないかと思われた。

 書き写したノートを確認したところ、宮脇が、同じネクタイピンを、2年前の2011年3月20日、アクセサリー専門店ヤマダで買ったことが、裏付けされており、宮脇のタイピンに間違いない。

 このタイピンを、被害者が握りしめていたことが、宮脇を追い詰めた……?

 どのように考えていいのか、尾山には、考えもつかなかった。

 もし、ネクタイピンにヒントがあるのであれば、ネクタイピンを売った店へ行って、店員の話を聞けば、何か分るかも?

 

 尾山は、市内地図で、アクセサリー専門店ヤマダの場所を探し、車で向かった。

 車を商店街の有料駐車場に止め、歩いて店へ向かった。

 店は、繁華街の真ん中にあり、宝石の指輪などがウインドーに飾られている。飾られている宝石を見たかぎり、若者向けの店のように感じた。

 正面自動ドアから店内へ入ったところ、

「いらっしゃいませ」

 30歳位の女性店員が声をかけて来た。

 警察手帳を見せ、

「申し訳ありません、お客ではなく、警察のものです」

 と伝えた。

 女性店員は、

「店長、警察の方です」

 と、奥の方へ声をかけた。

 店の奥の方から、身形がスッキリした、40歳位の男性店長が出て来た。

 再度警察手帳を見せ、

「ネクタイピンのことで、教えて欲しいのですが?」

と言ったところ、

「前にも2人の刑事さんが、色々調べて行きましたよ」

 との返答。

 ネクタイピンの写真を店長に見せ、

「このネクタイピンを売ったときのことを、詳しく教えてもらえませんか?」

「前の刑事さんに、販売した時の伝票を見せて、説明しましたが、まだ何か?」

「2年前に、宮脇という男に売ったことは、聞いているのですが、売ったのは店長さんですか?」

「いや、伝票では、店員の橋本が担当したことになっています」

「橋本さんに、話を聞きたいのですが?」

「橋本は、1年前から、駅前支店の店長をしており、ここには居ません」

「今から駅前支店へ行っても、会えるでしょうか?」

「ちょっと待ってください」

 男性店長は、目の前で電話をし、

「本店だけど、今日、橋本店長出ている…… 警察の人が、2年前橋本さんが売ったタイピンのことで聞きたと言っているので、そちらへ行ってもらうよ…… そんなこと言わずに、協力してやって」

 尾山は思った。電話の向こうの橋本さんは、「2年前のことは覚えていない」と言っているのだろうと……

 尾山は、丁重にお礼を言って、アクセサリー専門店ヤマダ駅前支店へ向かった。

 

 車を店の前に止め、店内へ入ったところ、カウンター内に、女性が2名立っていた。

 2人に向かって、

「橋本さん?」

 と言ったところ、年齢が上で、30歳位と思われる女性が、

「刑事さん? 橋本ですけど」

 と返事をした。

「刑事さん」との、問いかけには、少し戸惑ったが、警察手帳を見せ、「尾山と言います」と言った。

「2年前のお客さんのことを、聞きたいとのことですが、覚えていないですよ……」

 頭ごなしの返事があった。

「そんなこと言わず、とりあえず、この写真を見てもらえませんか?」ネクタイピンの 写真2枚を見せた。

 橋本店長は、写真を手に取って、食い入るように見ていた。

「これ…… ガーネットのタイピンやね? 一時期人気があったが、今は製造していないはず…… あ、これ間違いなく、私、売った覚えがある」

 尾山の顔を見ながら答えた。

「覚えていますか?」

「売ったお客様の年恰好は忘れましたが、タイピンを売ったときのことは覚えています。ガーネットは、日本名柘榴石とも言って1月の誕生石ですが、誕生日のプレゼントに、適当なタイピンがないかとの相談を受け、当時、ガーネットのタイピンが店になく、カタログを見せたところ、取り寄せて欲しいとのことで、問屋から取り寄せ、数日後に渡したのです。お客様の名前は、本店に伝票があるはずで、伝票を調べれば、分るはずです」

「だれが買ったかは、既に本店の伝票を見せてもらっています」

「そうですか」

「だれにプレゼントすると言っていたか、覚えないでしょうね?」

「そこまでは、覚えていません。このタイピンは、私からお客様に勧めたもので、お客様は、自分で使うなどとは言ってなかったと思います」

「花には、花言葉がありますが、宝石にも、花言葉のような意味合いの言葉がありますか?」

「ありますよ…… お守り的意味合いの、石言葉が」

「ガーネットの石言葉は、何ですか?」

「ガーネットは、友情、真実、秘められた情熱と、言われています」

「真実…… 参考に、2月の誕生石は?」

アメシストで、紫水晶とも言います」

アメシストの石言葉は、何ですか?」

「誠実、高貴です」

「あたっていますね」

「なにが?」

「実は、私の誕生日が2.月になります」

「刑事さんに、ぴったりですね」

 その場が、和やかな雰囲気になった。

 一通り聞き終わった後、橋本店長に確認をした。

「今の話、前に来た刑事に話しましたか?」

 橋本店長は、不思議そうな表情で、

「いや、ネクタイピンのことで、訪ねて来たのは、刑事さんが初めてですよ」

 尾山は、橋本店長の言葉を聞いて、捜査本部が、宮脇以外見えなくなっている原因が分った。

 橋本店長に、お礼を言って店を出た後、静かな場所へ移動し、携帯で川部に電話した。

「2番弟子、周りにだれかいるか?」

 尾山から先に言った。

「ちょっと待って下さい」

 場所を移動したらしく、少し経ってから返事が来た。

「師匠、なんですか?」

「帳場に、捜査対象者の名前などを、一覧表にしたものがないか?」

「容疑者の一覧表ですか?」

「容疑者だけでなく、事件の関係者が解るように、一覧表にまとめたもので、どんな帳場でも、パソコンのエクセルなどで作っているはずや」

「調べてみます」

「パソコンでも、書類でもいいが、そのようなものがあったら、誕生日が1月の者がいたら、抜き出してほしい」

「結果は、どうします?」

「署へ帰って、電話を入れるから、署の隣の喫茶店で会えないか?」

「大丈夫です、ひな壇の連中は、午前中に帰りました。自分も帰ってもいいと言われています」

 

 警察署へ帰り、川部に、

「今から、隣の喫茶店へ行く」

 と電話で伝えて、喫茶店へ行った。

 喫茶店のマスターは、尾山の顔を見るなり言った。

「尾山課長さん、今日はどうしたのですか? 背広で決め込んで」

「いやー。儂も、背広を持っていることを、マスターに見せようと思ってね」

「似合いますよ、いぶし銀の刑事さんみたい」

 マスターも、色々情報を仕入れているようだ。

 尾山が、奥のテーブルに座ると同時に、川部が入って来た。

 マスターが、おしぼりと水を持って来たので、おしぼりで手を拭きながら言った。

「儂、スバゲテイを頼むけど、2番弟子も何か食べるか?」

「先ほど昼飯を食べたので、もう入りません」

「コーヒーなら、いいか?」

「はい」

 と言うので、スパゲティとコーヒーを注文した。

「どうだ、分ったか?」

 との問いかけに、川部はポケットから手帳を取り出して、中を見ながら言った。

「調べたところ、事件関係者で1月生まれは、3人いました。宮脇の関係では、宮脇の勤め先の社長。被害者野村の関係では息子の和博と、毎日食事を届けている弁当屋の配達員です。他分りません」

マ スターが、コーヒーを持ってきたので、話を中断し、帰るのを待った。

「勤め先の社長か…… 従業員が、社長の誕生日に、プレゼントをするか?」

「よっぽど世話になっておれば、感謝の気持ちで、プレゼントすることもあると思います。……なんの話ですか?」

 尾山は、アクセサリー専門店ヤマダでの、聞き込み結果をそのまま話した。

 話を聞いていた川部は、

「……ということは、あのネクタイピンは、2年前に、宮脇が買って、だれかにプレゼントしたということですか?」

「分るか…… 宮脇が現場に落としたのでなく、宮脇がプレゼントした相手が、落としたということや」

「えー」

 川部が驚いている時、マスターがスパケティを持ってきた。

 尾山は、スパゲティを食べながら、言った。

「帳場に、被害者と、被疑者の戸籍謄本があるはずだから、コピーを事務室まで持ってきてくれ」

「分りました。戸籍謄本で、何か分るのですか?」

「戸籍謄本を見ても、分らないけど、頭の中を整理してみたい」

「師匠、宮脇は、なぜ自供したと思いますか?」

「2番弟子は、どう思う?」

「昨日の晩から、新谷係長は、得意満面に、はしゃいでいるけど、新谷係長の取り調べで自供したとは、思えないのです」

「そう。新谷係長が自供させたのでなく、宮脇が、ネクタイピンの写真を見て、自分から進んで自供したのや」

「ということは…… 真犯人を庇って?」

「そうや…… 2番弟子も、成長したな」

「だれを庇っているのですか?」

「宮脇の関係者で、1月生まれが、勤め先の社長しかいないとなると…… 社長か?」

「大変なことに、なってきましたね。この話、ひな壇の連中に言わなくていいですかね?」

「今の段階で、あの連中に言うと、また、めちゃめちゃにしてしまう。もう少し調べてみるので、このことは誰にも話さないように」

「分りました。花の捜査一課も、師匠にかかれば、形無しですね?」

「そんなら帰るか、謄本頼むよ」

 

10

  留置事務室で待っていたところ、川部が、宮脇秀次と野村博の戸籍謄本のコピーが入った封筒を持ってきた。

 封筒を受け取った後、留置場内を巡視して帰宅した。

 帰宅したところ、妻は外出中で、愛犬の小太郎が留守番をしていた。

 2階の書斎に籠ろうとしたところ、小太郎がドアの外で吠えている。

 頭の整理が出来ないので、ドアを開け、室内へ入れた。

 主人と一緒にいると安心するのか、足元で寝ている。

 既に、ポイントをノートに写し取ってあるため、見ることもなくなった事件記録のコピーを、封筒から取り出し、机の上に広げた。

 宮脇の勤め先社長のことが書かれている書類がないか、探したが、期待する書類はなかった。

 先ほど手に入れた、宮脇秀次の戸籍謄本を確認したところ、平成5年6月2日、川上久子と結婚し、久子は、結婚翌年の平成6年1月20日、死亡している。

 2人の間に子供はいない。秀次は、妻と死別したあと、独身を通している。

 被害者野村博の戸籍謄本を確認したところ、博は、昭和19年10月1日生で、妻山本恵子、昭和27年4月1日生と、昭和46年8月20日、結婚。平成6年1月3日、長男和博誕生。妻恵子は、平成21年11月2日死亡している。

 なんら特別なところは、見当たらない。

 

 尾山は、新たに分かった事実を元に、最初から整理してみることにした。

 ポイントをノートに書きながら……

ーー宮脇が野村医院へ行った時、既に院長が血を流して死んでいた。

 野村医院へは、院長から呼ばれて行った。

 呼ばれた理由については、死んでも言えない。

 犯行を否認し続けていた男が、現場遺留品のネクタイピンの写真を見て、自供に転じた。

 そのネクタイピンは、宮脇が1月生まれの者に、誕生日のプレゼントとして渡している。

 宮脇は、ネクタイピンから犯人を予測し、犯人を庇っている。

 庇っている者として考えられるのは、勤め先の社長。

 どう考えればいいのだろう……

 尾山は、椅子に座ったまま、目をつむって考え続けた。

 足元に、戯れ付いて来る小太郎を抱き上げ、話しかけた。

「小太郎、どう思う……」

 首を傾げているが、返事など帰って来るはずがない。

ーーネクタイピンは、ほんとに遺留品…… 捜査のヒントが浮かんだ。

 遺留品とは、犯人が現場に残していった物を言っており、殺人事件現場の遺留品については、死者に代わって、生前の状態が分る者に立ち会ってもらい、死者の所有物でないと確認した上で、遺留品と判断している。

 記録上、現場の実況見分の立ち合いは、女性の看護師が立ち会っている。

 独り暮らしと言っても、被害者には、2年前まで同居していた、和博という1人息子がおり、父親とは連絡を取り合っているはず。

 4月1日作成の、供述調書には、ネクタイピンを確認させたなどとは、書かれていない。宝石店の捜査と同じで、捜査本部は、基本的捜査を怠っているのでは?

 小太郎が教えてくれたのか、1つの方向が見えて来た。

 野村和博の供述調書に、連絡用電話として携帯電話の番号が書いてあるので、電話をした。

 電話では、詳しいことを言わず、

「確かめたいことがあるので、会ってほしい」

 と言って、会う約束を取り付けた。

 明日の午後2時0分、野村和博の住むアパート近くの喫茶店で会うことにした。

 喫茶店は、野村和博が指定し、尾山は、当日の服装などを相手に告げた。

 

 4月14日日曜日、午前10時50分、マイカーで自宅を出発した。

 和博のアパートは県外で、高速を通って2時間30分位かかる。

 警察官は、休日であっても、県外へ出る時は、事前に届を出すようになっているが、尾山は、無断遠行で行った。

 午後1時30分、アパートの前に到着したので、喫茶店を探し、約束の時間まで、車の中で時間待ちをした。

 午後1時55分、店内へ入り、喫煙席のテーブルに座って、和博を待った。

 午後2時5分、それらしき男が店内に入って来た。すらっと背の高い男だ。

 尾山は、席を立って声をかけた、

「野村和博さん、昨日電話をした尾山です」

 相手は、

「野村です。色々世話になっています」

 と言いながら、対面する椅子に座った。

 尾山から「コーヒーで、いいですか?」

 と言ったところ、

「はい」

 というので、コーヒー2つを注文した。

「私が煙草を吸うので、喫煙席にしたのですが、迷惑でしたら禁煙席に移りますか?」

 尾山が言ったところ、

「このままでいいです。私も煙草を吸います」

 と言って、ポケットからマイルドセブンを出して、ライターで火をつけた。

「愛煙家は、どこへ行っても、肩身の狭い思いをしなければならないからね」

「そうですね」

 店員が、コーヒーを持って来て、テーブルに置いて帰った。

「どうぞ」

 と言って、コーヒーを勧め、話の本題に入った。

 尾山は、留置管理課長の肩書の入った名刺を差し出し、

「実は、私は刑事ではなく、お父さんの事件を捜査する立場ではないのですが、私の刑事時代の教え子が、色々教えて欲しいとのことで、少し、事件に首を突っ込んでいます。個人的に、どうしても確かめたいことがあったので、今日は来ました」

 取留めのない言葉であるが、車の中で一生懸命に考えた言葉だ。

 和博は、一瞬訝しそうな顔を見せたが、それなりに理解できたのか、

「分りました」

 と言って、コーヒーを一口飲んだ。

「和博さんは、実家で、このようなネクタイピンを、見たことはなかったですか?」

 鞄の中から、ネクタイピン二枚の写真を出し、テーブルの上に置いて見せた。

 和博は、写真を取り上げ、

「あ……、このネクタイピンどこにありました?」

 予想していなかった返事が返って来たことから、尾山は少し驚いた。

「和博さんは、このタイピンのこと、知っているのですか?」

「知っているもなにも、このネクタイピンは、僕のです」

「和博さんが、買ったということですか?」

「いや、2年前に、父から、誕生祝にもらったものです」

「お父さんって…… 亡くなった、博さんのこと?」

「そうですよ」

 尾山は、混乱した。

ーー宮脇が誕生祝にと買ったネクタイピンを、野村博が息子に誕生祝いとして渡している。どうして…… 突然のことで、考えがまとまらない。

「和博さんは、このタイピンを、どうしたのですか?」

「父が亡くなった後、父からもらったネクタイピンを肩身にと思って、部屋の中を探したのですが、なかったのです」

「泥棒に盗られたと言うことですか?」

「いや、部屋の中はバタバタで、これまで、泥棒に入られた様子もなく、どこかに落としたのでは? と思っていました」

「確実に持っているのを確認しているのは、いつですか?」

「今年の正月、実家へ行く時、背広を着て、このネクタイピンをしたことは、覚えているのですが、それ以後は確認していません」

「このタイピンは、お父さんが倒れていた居間で、お父さんの手の下から発見されたのですが、どのようなことが考えられますか?」

「実家で落としたとしても、そんな場所に、そのままになっていたとは、考えられませんね…… 見当もつかないです」

 この時、尾山は、ノートに、犯人は、179センチ以上と書いたことを、思い出した。

「お父さんも、大きな方でしたが、和博さんは、身長どれ位ですか?」

「180センチです」

「お父さんが、亡くなった時、どこにおいでたんですか?」

「学校が休みで、アパートで本を読んでいました」

「一日中? もちろん1人ですよね?」

「そうです」

「何という本ですか?」

 和博は、なぜ、そのようなことを聞くのか? と言うような表情を見せた。

「良く、親しい方が亡くなった時、何らかの予感を感じることがあると言われていますが、和博さんは、何か感じませんでしたか?」

 尾山は、さりげなく、和博のアリバイを確認した。

 話を一通り聞いたので、

「今日は、どうもありがとうございました。コーヒー代は、私が払っておきますので、ここで失礼します」

 野村和博は、

「それでは失礼します。コーヒーありがとうございました」

 と言って店から出て行った。

 尾山は、窓越しに、野村和博が乗り込む車のナンバーを、ノートにメモした。

 昼食をとっておらず、腹が減ったので、サンドイッチとコーヒーを追加注文した。

 

 サンドイッチを食べながら、考えた。

ーーまた、新たな事実が分ったが、どのように考えればいい…… 食べ終わったら、少し整理してみるか?

 サンドイッチを食べ終わった後、鞄の中からノートを出し、宮脇秀次、妻久子、野村博、妻恵子、野村博の長男野村和博、とそれぞれの家族の系統図を書き、生年月日、結婚年月日、死亡年月日などを記入してみた。

 系統図を見て、一つの推論を立てることが出来た。

ーー宮脇秀次の妻久子は、平成6年1月20日死亡し、その17日前の平成6年1月3日、野村和博が生まれている。

 野村久子は、和博を42歳の時産んでおり、しかも結婚20年目の高齢出産。

 宮脇の話を留置場で聞いた時、宮脇は、野村院長との関係を、死んだ妻が流産した時お世話になってから、色々世話になっている。と言っていた。

 流産ではなく、正常に生まれたのを、理由があって野村夫婦の子供として育てたのでは?

 宮脇が尾山に対して、「人には1つや2つ言えないことがある。」と言っていたのは、このこと?

 実父の宮脇が、和博の誕生祝としてネクタイピンを購入し、養父の野村博の手から渡してもらった。

 陰から和博を見守っていた宮脇は、和博に渡したネクタイピンが、殺害現場に遺留されていたことを知り、和博が養父を殺害したものと思って、身代わりになることを覚悟して自供をした。全てつながった。

 次に、犯人について考えて見た。

ーー和博の身長は、178センチ。犯人としての適格性がある。

 現場に遺留されたネクタイピンの持ち主で、紛失したと言っているが、その裏付けは取りようがない。

 実の父と養父が絡んだ、ネクタイピンを巡って、親子喧嘩が考えられないでもない。

 これを証明するためには、どうすればいい?

 テーブルの上に置いてある、吸い殻入れに目が留まった。

 先ほど、和博が吸った、マイルドセブンの吸い殻が2本ある。

 これでDNAの親子鑑定が出来るかも?

 尾山は、ポケットテッシュを取り出し、ティシュペーパー3枚重ねたのを、2つ折りにして、吸い殻を包み込むように折りたたんで、鞄の中へ入れた。

 帰りの車の中で、これまで明らかにしたことを、捜査本部のひな壇の連中に教え、後の捜査を任せるかどうか迷ったが、面々の顔を思い浮かべていたところ、もう少し、やるべきことをやってみようという気になった。

 

ー第7回に続くー